問い合わせ対応のAIアセスメント:対象と進め方

AI活用を検討するとき、最初に候補へ挙がるのが「AIアセスメント」です。ただし、AIアセスメントという言葉が指す範囲は広く、業務、データ、人材、スキル、ガバナンスなど、何を診断するかによって方法も成果物も変わります。

全社の業務を見渡すことには意味があります。一方で、業務名を大きな単位で並べただけでは、AIで何ができるか、どのデータが必要か、どこから実装すべきかまで深掘りできないことがあります。

この記事では、上流工程を押さえながら、最初の対象を「お問い合わせ対応業務」に絞ってAIアセスメントを行う考え方をお伝えします。

AIアセスメントには複数の種類がある

AIアセスメントに統一された定義があるわけではありません。公開されているサービスを比較しても、対象は異なります。

FDX株式会社の記事では、業務を棚卸しして工数を定量化し、AIへの適合性、導入コスト、投資対効果を整理する工程として説明されています。

一方、株式会社インソースの生成AIアセスメントは、生成AIを業務で利用するためのスキルやガバナンス、品質検証、業務改革に関する個人・組織の状態を測定するものです。

どちらが正しいという話ではなく、診断したい対象が違います。少なくとも、実施前に次のどれを知りたいのかを明確にする必要があります。

  • AIを適用できる業務と投資の優先順位
  • 従業員のAI活用スキルと育成課題
  • データやナレッジの整備状況
  • 特定業務における自動化・担当者支援の実現可能性
  • AI利用時のリスク、権限、ガバナンス

全社診断と業務別診断の使い分け

全社を対象にすること自体が、失敗の原因になるわけではありません。全体を俯瞰し、投資対象を選ぶ目的では有効です。

問題になりやすいのは、対象範囲が広いまま、業務の粒度や評価基準が揃っていない状態です。「営業」「カスタマーサポート」「管理業務」といった大きな単位では、AIが扱う入力、判断条件、出力、例外、必要なデータを具体化できません。

FDXの記事でも、業務の粒度が粗すぎるとAI対応の判定が難しくなり、細かすぎると棚卸し項目が増えすぎるため、担当者が一度に完了する作業単位まで分解する考え方が示されています。

全社アセスメントで候補領域を選び、その後は対象業務ごとに深掘りする。あるいは、負荷とデータがすでに見えている業務から診断し、結果を他部門へ展開する。この二段階の進め方が現実的です。

全社では投資候補を広く選び、対象業務では入力、判断条件、出力、例外、必要なデータまで具体化します。二つを同じ粒度で進めず、段階を分けることがポイントです。

全社AIアセスメントから問い合わせ対応の深掘りへ進む二段階の流れ

全社を俯瞰する段階と、実装可能性を深掘りする段階を分けます。

診断前に決める目的と対象範囲

AI活用でも上流工程は必要です。ただし、最初から全社のTo-Be像や数年分のロードマップを詳細に作ることだけが上流工程ではありません。

初期段階では、少なくとも次の項目を決めます。

  1. 目的:対応時間、自己解決率、品質、担当者負荷など、何を改善したいか
  2. 対象範囲:どのチャネル、問い合わせ、チームを診断するか
  3. 評価軸:効果、実現性、データ整備、リスクをどう見るか
  4. 人とAIの役割:自動回答、回答支援、人への引き継ぎをどう分けるか
  5. 検証方法:導入前後で確認する指標とサンプルをどう用意するか

この部分を決めずにツール選定へ進むと、導入後に効果を測れません。反対に、ここが決まれば、最初の診断対象を限定しても全体方針との整合性を保てます。

問い合わせ対応は業務負荷が表れやすい

問い合わせ対応は、受信して返信するだけの業務ではありません。内容の確認、過去履歴やナレッジの検索、顧客情報・注文情報の参照、担当部署への確認、記録、分類、エスカレーションなどが発生します。

Salesforceが5,500人を超えるサービス担当者などを対象に実施した調査では、77%の担当者が前年より業務負荷が増え、65%がケースの複雑性も増したと回答しています。また、担当者が顧客対応そのものに使う時間は39%で、残りは社内会議、管理作業、対応記録などに使われていると報告されています。これは、改善対象が返信文の生成だけではないことを示しています。

顧客側の期待も高まっています。Zendesk CXトレンドレポート2026年版では、消費者の74%がAIを活用した24時間365日のカスタマーサービスを期待し、88%が1年前より速い応答を期待していると回答しています。この調査は、22か国の消費者6,182人とCX担当者5,115人などを対象に実施されています。

対応量と期待がともに増える状況では、AIを導入するかどうかだけでなく、どの作業に使うかを見極める必要があります。

問い合わせ対応における担当者の業務負荷と顧客の期待を示す調査結果

担当者側と顧客側では調査対象が異なるため、数値を直接比較するのではなく、それぞれの傾向として確認します。

問い合わせ対応は診断データを集めやすい

問い合わせ管理ツールには、判断材料になり得る履歴が蓄積されています。

  • 問い合わせ本文と返信内容
  • 受付チャネル、カテゴリ、担当チーム
  • 初回返信時間、解決時間、保留・再開の履歴
  • 転送、再割り当て、エスカレーション
  • マクロ、FAQ、ナレッジの利用状況
  • 満足度、再問い合わせ、再オープン

このデータから、件数が多い問い合わせ、判断が定型化できる問い合わせ、回答根拠が不足している問い合わせ、外部データの参照が必要な問い合わせを整理できます。

ただし、チケットデータだけでは分からないこともあります。別システムでの検索、担当部署からの回答待ち、表計算への転記などは、チケットに記録されていない場合があります。そのため、データ分析と現場ヒアリングを組み合わせます。

チケットデータと現場ヒアリングから6つの改善候補を整理する流れ

蓄積データを評価し、AIだけでなくナレッジ、システム連携、業務フローを含む改善候補へ分けます。

問い合わせ対応で確認したい6つの領域

問い合わせ対応に対象を絞ると、診断結果を具体的な施策へ分けやすくなります。

  1. AIによる自動回答:定型的で、ナレッジを根拠に回答できるか
  2. FAQ・ナレッジ整備:自己解決や回答支援に必要な情報が不足していないか
  3. 担当者支援:要約、分類、回答案、次の手順提示が有効か
  4. システム連携:顧客、注文、契約などの情報取得を自動化できるか
  5. 業務フロー改善:振り分け、確認待ち、転送、承認を見直せるか
  6. 問い合わせ削減:Webサイト、製品、案内方法の改善で発生を防げるか

AIで回答できる割合だけを見るのではなく、AIを使う前に整備すべき情報や、AI以外の改善策も同じ診断の中で確認することが重要です。

診断結果の評価項目と優先順位

AIアセスメントの成果物が、候補業務の一覧だけで終わると実装へ進みにくくなります。問い合わせ対応に絞る場合は、各カテゴリを少なくとも次の観点で評価します。

  • 発生件数と現在の対応負荷
  • AI適用時の効果と実現可能性
  • 回答根拠となるナレッジの有無
  • システム連携やデータ整備の必要性
  • 誤回答時の影響と人による確認の要否
  • 実装後に測定する指標

たとえば、問い合わせカテゴリごとに件数、期待効果、実現性、前提条件、推奨施策を並べると、件数の多さだけに引っ張られず、次に着手する内容を判断しやすくなります。

架空データで作成した問い合わせカテゴリ別のAI活用診断レポート例

図は診断結果の整理方法を示すサンプルです。数値と問い合わせカテゴリは架空のものです。

削減率や自動回答率は、実装前には推定値です。断定的な効果として扱わず、前提条件と幅を明記し、小さく検証して実測値へ置き換えます。

KIRIKOMIのお問い合わせ対応 AI活用診断

KIRIKOMIでは、Zendeskなどに蓄積された問い合わせデータを対象に、AI、ナレッジ、Zendesk設定、業務フロー、システム連携の改善候補を整理する「お問い合わせ対応 AI活用診断」を提供しています。

  • 最大10,000件を目安とした問い合わせデータの分析
  • AI自動回答・担当者支援の適用可能性の整理
  • FAQ・ナレッジの整備候補
  • システム連携・業務フロー改善の候補
  • 優先順位と次のアクションをまとめた診断レポート
  • 実施期間は1〜2週間を目安

通常料金は100,000円です。最初の5社はモニター価格50,000円で実施します。

診断後の実装を前提とせず、結果を社内検討に利用できます。継続してご相談いただく場合は、Zendesk設定改善、FAQ・ナレッジ整備、AI機能の導入、外部システム連携まで対応します。詳しい内容は、Zendesk導入・活用支援のサービスページをご確認ください。

まとめ

AIアセスメントでは、範囲を広くすることよりも、何を判断するための診断かを明確にすることが重要です。

全社の業務棚卸しは、候補領域を選ぶために有効です。その次の段階では、問い合わせ対応のように、業務負荷、履歴データ、改善指標がつながる領域へ対象を絞ることで、AIだけでなくナレッジ、システム連携、業務改善まで具体化しやすくなります。

現在のデータで何を確認できるか分からない段階でも、お問い合わせフォームからご相談いただけます。

参考資料

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